
本学術集会は、「実践の知を紡ぐ ―ファミリーヘルスからの再考―」をテーマに、現代の家族を取り巻く複雑な状況のなかで、私たちが現場で培ってきた「実践の知」を改めて見つめ直し、他者と共有し、次世代に継承していくことを目的としています。医療・看護・福祉の現場では、理論に基づいた知識(エビデンス)だけでなく、日々の実践を通して培われる経験知こそが、判断や支援の要となる場面が多くあります。たとえば、家族の沈黙の背景にある感情を感じ取ったり、言葉にされない不安に寄り添ったり、信頼関係を築くプロセスには、理論を超えた実践の知が必要です。これまでの医療やケアは個人を中心に展開されてきましたが、健康や病いは個人のみで完結するものではなく、家族という関係性の中で影響し合う現象です。ファミリーヘルスの視点では、家族をひとつのシステムととらえ、相互作用のなかで健康課題を理解しようとします。そこではマニュアル的対応ではなく、柔軟で経験に根ざした判断が求められます。
地域包括ケアが進展する今、現場の実践者と研究者がともに語り合い、学び合うことは、地域に根ざした持続可能なケアの創造に向けた第一歩となります。本学術集会が、そうした対話と交流の場として、多くの気づきとつながりをもたらすことを願っております。
皆さまの積極的なご参加を、心よりお待ち申し上げます。

第25回東邦看護学会学術集会
臼井 雅美(東邦大学健康科学部 教授)